電子機器の基板は、水分の侵入によって故障の原因となることがあり、とくに屋外設置や水分が多い環境では防水対策が欠かせません。その際には、基板表面を樹脂膜で覆い、水分や粉塵、薬品からのダメージを防ぐ基板コーティング剤がおすすめです。この記事では、基板コーティング材の選び方や対応のコツについてくわしく解説します。
基板の「防湿」と「防水」は異なる!
「防湿」と「防水」は、基板保護においてよく混同される言葉ですが、その目的や対応すべきリスクには明確な違いがあります。正しく理解し、適切な材料を選ぶことが、電子機器の信頼性を担保するうえで重要です。防湿コーティング
空気中の湿気や粉塵から基板を保護するためのコーティングです。湿度の高い環境では、基板の表面に水分が付着しやすく、それが原因で金属部分が腐食したり、電流の漏れやショートを引き起こしたりします。また、粉塵が基板の隙間に入り込むと、熱が逃げにくくなり、内部温度が上昇して部品の劣化を早めてしまう可能性もあります。湿気や粉塵から守り、故障を防ぐのが防湿コーティング剤の役目です。
防水コーティング
防水コーティングは、水没や激しい水しぶき、高湿な場所での使用を前提とした電子機器を守るものです。産業用途や医療用途の機器を使用する環境では、水分や薬品、化学物質にさらされるケースもめずらしくありません。これらの物質は基板の絶縁材や回路パターンを徐々に侵食し、性能低下や故障を引き起こすリスクがあります。このような環境下では、強固な防水コーティング処理を施しておくと安心できます。
基板の防水性を高める方法
電子機器の基板は、湿気や水分の侵入によって腐食やショートを引き起こすおそれがあり、とくに過酷な環境下ではその対策が不可欠です。防水性を高めるために、使用環境に応じた構造設計が求められます。コーティング処理
専用の樹脂を塗布し、薄い保護膜を形成することで水分から基板を守ります。とくに粉塵の多い環境や、塩害が懸念される場所で効果を発揮します。また、防水筐体の使用がむずかしい、小型の電子機器にも適しています。ポッティング処理
基板を専用ケースに固定し、液状の樹脂を流し込んで固めることで、完全に基板を封止する手法です。コーティングよりも厚く硬い保護層が形成されるため、浸水や油分の侵入をほぼ完全に遮断できます。水中や土壌に設置される機器、あるいは切削油などが飛散する産業機械内部の基板に向いています。こちらも防水筐体に比べてコストを抑えられる点が特徴です。
筐体による防滴・防水構造
これは機器全体を物理的に密閉し、水や粉塵の侵入を防ぐ手法です。屋外で雨ざらしになる場合や、災害時に水没のリスクがある設置場所に適しており、一定時間水中に浸かっても動作するよう設計される場合もあります。また、内部基板の着脱を想定した設計が可能なため、大型機器や長期運用が前提の設備では、この方法が選ばれることが多いです。
基板コーティングを行うための材料の選び方と対応のコツ
基板の防水性・防湿性を高めるためには、使用環境にマッチするコーティング剤を正しく選び、適切に施工することが不可欠です。アクリル系コーティング剤
一般的な環境下では耐候性がありますが、防水性能は高くありません。防護性能を高めるためには膜厚を増やす必要があり、結果として基板全体が重くなるのがデメリットです。加えて、有機溶剤を含むため、保管・作業管理の徹底が求められます。ウレタン系コーティング剤
耐摩耗性と耐薬品性にすぐれており、機器の外装や耐久性が必要な部位に適しています。柔軟性もあるため衝撃に強い一方で、防水性はアクリル系同様に限定的です。また、有機溶剤を含むため、取り扱いには法令順守と安全措置が必須です。シリコン系コーティング剤
ゴムのように柔らかく、低温環境でも割れにくいのが特徴です。柔軟性にすぐれる反面、湿気を通しやすく、防湿性は他の材料に劣ります。そのため、厚く塗布する必要があり、結果として基板の重量増加につながる可能性があります。オレフィン系コーティング剤
低温でもクラックが入りにくく、防湿性能が高いことが特徴です。ただし、有機溶剤を含むため取り扱いには注意が必要で、法規制に沿った管理が求められます。フッ素系コーティング剤
非常に高い防湿性と耐酸性があり、塗布が薄くても十分な保護効果を発揮するため、基板の軽量化に貢献します。さらに、引火性がないため作業環境の安全性が高く、防爆対策も不要です。塗布時の粘度が低く、臭気も抑えられており、作業者への負担が少ないという利点もあります。適切な施工環境と安全確保が重要
コーティング剤の施工環境への配慮は重要です。湿度や温度が高すぎると、コーティングが正常に硬化せず、性能を十分に発揮できない可能性があります。また、安全性の確保も忘れてはなりません。とくに有機溶剤を含むコーティング剤を使用する際は、換気の徹底や防護具の着用、保管場所の管理が求められます。法的な基準や指針に従い、作業者の健康と安全を守りましょう。